オフィス移転は単なる引っ越しではなく、企業の成長や組織改革の一環として行われる重要なプロジェクトです。しかし、手順を誤ったり、準備不足のまま進めてしまうと、業務の停滞や社員の混乱、コストの増大などのトラブルにつながりかねません。
そこで本記事では、オフィス移転を「スムーズに」進めるための段取りやポイントについて、実践的な観点から解説します。どこから着手すればいいのか、何に気をつけるべきかを明確にしながら、安心して移転に取り組めるヒントをご紹介します。

オフィス移転を「スムーズに進める」とはどういう状態か?
「スムーズなオフィス移転」とは、無理なく、トラブルなく、予定通りに業務を止めることなく移転作業を完了できる状態を指します。
「成功」と言うと、レイアウトの最適化や社員満足度の向上などを含めた総合的な結果を想像しがちですが、「スムーズに進める」ことは、その成功の前提となる「段取りの良さ」や「関係者との連携」に重点を置いた概念です。
具体的には、以下のような状態が理想とされています。
- スケジュール通りに各工程が進行している
- 社員や外部業者との連携がとれている
- 作業の漏れがないよう管理されている
- 移転前後で業務の混乱がない
これらの状態を実現するために、次章からは具体的な段取りや実践ポイントを時系列で見ていきましょう。
スムーズなオフィス移転に必要な「5つの段取り力」
オフィス移転をスムーズに進めるには、「段取り力」が鍵となります。ここでは、計画から当日の動きまでを円滑に進行するために必要な5つの段取りについて解説します。
1. スケジュールの全体像を早期に把握する
オフィス移転では、まず全体スケジュールを明確にすることが出発点です。移転日から逆算して、各工程の締め切りを設定していく「逆算型スケジューリング」が有効です。
スケジュールに含めるべき主要な項目は以下の通りです。
- 新オフィス物件の契約日
- 内装設計・工事の期間
- インフラ(ネット・電話)の工事日程
- 社内周知や備品整理の時期
- 引越し業者との打ち合わせ
- 旧オフィスの原状回復工事開始日
早期にこれらを洗い出し、移転日から逆算して各工程の着手時期を明確にしておくことで、余裕を持って進行できます。
2. 社内の移転推進チームを組織する
オフィス移転は一部署だけで完結する作業ではありません。総務・人事・情報システム・営業など、さまざまな部門が関わるため、部門横断型の「移転推進チーム」を編成しましょう。
このチームでは以下のような役割分担が効果的です。
- プロジェクト全体管理(総務・経営企画)
- 社内調整と周知(人事・広報)
- IT・ネットワーク対応(情報システム)
- レイアウト・設備の確認(各部門の代表者)
関係部署の責任者を巻き込み、早い段階からチームとして動き始めることで、意思決定のスピードも上がります。
3. 社内外の関係者とこまめに情報共有する
移転プロジェクトの失敗要因として多いのが「情報共有不足」です。社内では、社員全員が状況を把握して動けるよう、定期的なメール配信や説明会、社内ポータルの活用が重要です。
また、社外に対しても以下のような関係者に早めに連絡を取りましょう。
- 取引先・顧客(新住所・連絡先の案内)
- 郵便・宅配業者(転送や集荷体制の確認)
- 各種官公庁・金融機関(届出や変更手続き)
情報共有を怠ると、移転後のトラブルや業務遅延の原因になりかねません。進行状況を見える化し、共有する体制づくりが大切です。
4. チェックリストで抜け漏れを防ぐ
オフィス移転では、細かい作業が多く、手続き漏れがトラブルの元になります。そのため、自社専用の「移転チェックリスト」を作成し、タスクを管理しましょう。
チェックリストに入れておくべき項目の例
- 備品の処分・新規購入リストの作成
- 住所変更に伴う登記や契約書の更新
- 消防署・電力会社への届け出
- 社員の座席表とフロアレイアウトの決定
- 来客・配送対応の一時体制の整備
チェックリストを紙だけでなく、クラウド型のプロジェクト管理ツール(例:Backlog、Trelloなど)で共有すれば、チーム内の進捗確認もスムーズです。
5. 移転当日の段取りと翌日の業務再開準備
移転当日と翌日の動きは、業務に直結する重要ポイントです。引越し当日は、作業動線の確保や各エリアごとの責任者配置が不可欠です。
当日の準備としては
- 荷物ごとのラベル付けと配置表の配布
- サーバー・ネットワークの稼働確認の段取り
- 業者との連絡体制(緊急連絡先の共有)
また、翌営業日に業務がスムーズに再開できるよう、以下のような対応を事前に整えておきましょう。
- デスク・機器の初期動作確認
- 緊急時のサポート体制(IT部門など)
- ゴミ処理や最終清掃の手配
このように、移転の「最後の詰め」が、社員の印象を大きく左右するポイントです。
よくあるトラブルとその回避策
どれほど準備を重ねても、オフィス移転では思わぬトラブルが起こることがあります。ここでは、特に起こりやすい3つのトラブルと、その防止策についてご紹介します。
工事や内装の遅延がスケジュールを圧迫する
【よくある状況】
内装工事やインフラ整備が予定より遅れてしまい、引越し日や業務開始日に間に合わないというケースです。これは、施工内容の変更や資材調達の遅れ、施工業者との連携ミスなどが原因です。
【回避策】
- 初期段階で施工内容を固め、無理な変更を避ける
- 工事進行を可視化し、定期的な進捗確認を行う
- 余裕を持ったスケジュールを組む(工期+1週間など)
- 信頼できる業者を選定し、契約時に納期保証を明記
荷物が新オフィスに収まりきらない
【よくある状況】
移転先でスペースが不足し、什器や資料が置ききれないという問題も頻発します。旧オフィスの広さを基準にしてしまうと、物量の見積もりが甘くなることがあります。
【回避策】
- 移転前に「持ち込み品リスト」を作成して総量を可視化する
- 使用頻度の低い物品は事前に処分・廃棄を行う
- 必要に応じて外部倉庫や一時保管サービスの利用を検討する
- レイアウト設計の段階で収納スペースの見直しを行う
移転後に社員の不満や混乱が噴出する
【よくある状況】
新オフィスのレイアウトや座席配置、設備の使い勝手に対して、社員から不満の声が上がるケースがあります。また、設備の場所や利用ルールが周知されていないことによる混乱も見られます。
【回避策】
- 移転前にモックアップや図面でレイアウトを共有し、意見を収集する
- 社員説明会やマニュアル配布で不安を払拭する
- 移転後もアンケートやヒアリングで継続的なフィードバックを得る
- 不満が出た際に迅速に対応できる運用体制を整えておく
このように、トラブルの多くは「準備不足」または「コミュニケーション不足」によって発生します。次章では、こうしたリスクを軽減するために重要な「業者選定と活用のポイント」について解説します。

プロの業者をうまく活用するコツ
オフィス移転をスムーズに進めるうえで、信頼できる業者の存在は欠かせません。特に、内装・引越し・ITインフラといった専門領域では、プロの手を借りることで作業の質とスピードが大きく向上します。ここでは、業者をうまく活用するためのポイントをご紹介します。
業務ごとに最適な専門業者を選ぶ
オフィス移転には、さまざまな業務が発生します。一括して依頼できる業者もありますが、専門性の高い分野は、分離発注を検討するのも一つの方法です。
主な業者と対応領域
- 内装・レイアウト業者:壁工事、床張替え、照明、家具配置など
- 引越し業者:荷造り、搬出入、梱包資材の手配、廃棄処理など
- ITインフラ業者:ネットワーク配線、電話・サーバー機器の設置・移設
それぞれの業者に強みがあるため、実績や得意分野を確認して選定しましょう。
複数業者に見積もりを取り比較検討する
業者を選ぶ際には、1社に絞る前に必ず複数社から見積もりを取り、サービス内容や対応範囲、金額を比較することが重要です。
比較のポイント
- 提案力(業務の抜け漏れがないか、提案に具体性があるか)
- 費用の内訳(作業費、移設費、資材費などが明記されているか)
- 対応の丁寧さやスピード感(見積もり提出までの対応も判断材料)
価格だけでなく「コミュニケーションのしやすさ」や「アフター対応」なども含めて総合的に評価することが大切です。
スケジュールと役割分担を明確に伝える
業者との連携をスムーズに行うには、「誰が・いつまでに・何をするのか」を明確にしたスケジュール共有が不可欠です。打ち合わせの際には以下の資料を活用すると効果的です。
- 全体スケジュール表(ガントチャートなど)
- レイアウト図面や設備一覧
- 荷物リストや設置場所マップ
また、窓口を1人に固定しておくと、情報のやり取りがスムーズになり、認識のズレも防げます。
プロの業者を適切に活用することで、自社の負担を大幅に軽減できます。
オフィス移転後にやるべき最終チェック
オフィス移転が完了しても、そこでプロジェクトが終わるわけではありません。移転後の初日から業務をスムーズに再開するためには、いくつかの「最終チェック」が必要です。この工程を疎かにすると、業務に支障が出たり、社員の不満が高まったりするリスクがあります。
ここでは、移転後に必ず確認しておきたいポイントを整理してご紹介します。
稼働初日にチェックすべき5項目
- インターネット・電話回線の正常稼働
→ 通信障害や設定ミスがないか、全席でテストしましょう。 - 空調・照明などの設備の動作確認
→ オフィス全体が快適な環境になっているかを確認します。 - 会議室や共有スペースの予約・利用システム
→ 予約端末や利用ルールの案内が社員に伝わっているか確認します。 - 郵便・宅配便の受け取り体制
→ 宛先変更の反映状況や受付体制をチェックしましょう。 - 避難経路・防災設備の確認
→ 非常口や消火器の位置を周知し、社内案内図に明示しましょう。
社員アンケートで問題点の洗い出し
新しい環境に移ったばかりのタイミングでは、社員の本音が集まりやすい時期です。移転後1週間以内を目安に、簡単なアンケートやヒアリングを実施して、下記のようなフィードバックを集めましょう。
- 使いにくい設備や不便な動線
- 慣れないルールや使い方への戸惑い
- 不明点や案内不足の指摘
こうした声を早期に把握することで、社員満足度の向上につながります。
不具合の早期修正体制づくり
万が一、不具合や不都合が発生した場合に備えて、「修正対応フロー」を社内で共有しておくと安心です。
- 問い合わせ窓口(総務やIT担当)を明確化
- 緊急度に応じた対応フロー(即日/週内/月内など)
- 修繕業者や管理会社との連絡体制の整備
また、移転後1カ月程度は「ならし期間」と捉え、運用しながら改善していく柔軟さも求められます。
以上が、オフィス移転完了後に押さえておくべき最終チェックのポイントです。
まとめ:スムーズな移転の鍵は「段取り力と情報共有」
オフィス移転は、多くの部署や関係者が関わる複雑なプロジェクトです。だからこそ、事前の段取りと関係者間の情報共有がスムーズな移転を実現するためのカギとなります。
本記事でご紹介したように、スケジュールの全体像を早期に把握し、推進チームを組織することで、社内外との連携が取りやすくなります。また、チェックリストの活用や業者との密な連携により、トラブルや抜け漏れを未然に防ぐことができます。
さらに、移転後の最終チェックや社員からのフィードバックを活かすことで、より快適で効率的なオフィス環境を整えることが可能です。
「スムーズな移転」は、決して偶然に実現するものではありません。計画的な準備と確実な実行の積み重ねによって、安心して新たなスタートを切ることができるのです。
オフィス移転に不安を感じているご担当者さまは、ぜひプロのサポートもご検討ください。段取りから実施、移転後のフォローまで一貫してサポートを受けることで、余計な負担を軽減し、より安心してプロジェクトを進めることができます。
