オフィス移転は、企業にとって大きなターニングポイントです。しかし「業務を止められない」「お客様対応を継続したい」という理由から、移転に踏み切れず悩んでいる企業担当者も多いのではないでしょうか。
とくに総務や経営層にとって、「どうすれば通常業務を止めずに、移転を実現できるのか?」は極めて重要な課題です。本記事では、段階移転・夜間工事・インフラ対策など、実務で使えるノウハウを交えながら、業務を継続しながらのオフィス移転を成功に導くためのポイントを徹底解説します。

オフィス移転で業務を止めないとは?【基本の考え方】
なぜ「業務を止めずに移転したい」企業が増えているのか
働き方改革やDX推進、BCP(事業継続計画)への関心の高まりにより、「業務を止めないオフィス移転」へのニーズが急増しています。とくにコールセンターやIT開発など、1日でも稼働停止が売上・顧客満足に直結する業態では、通常の一斉移転ではなく“業務と並行した移転”が求められる場面が増えてきました。
背景には、以下のような理由があります。
- リモート対応やクラウド導入により、物理的な移転との両立がしやすくなった
- 競争環境の激化により「ノーダウンタイム」が経営戦略上の要請になっている
- 顧客対応や受発注業務を止められないため、切れ目ない運用が必要とされる
こうした傾向から、「移転=休業」という常識は、すでに過去のものになりつつあります。
通常のオフィス移転との違いと難しさ
従来のオフィス移転では、土日や祝日を活用した一括作業が主流でした。すべての荷物や機材を一度に移し、月曜から新オフィスで業務を再開するという方式です。
しかし、「業務を止めない移転」では、以下のような大きな違いがあります。
比較項目 | 通常のオフィス移転 | 業務を止めない移転 |
移転の進行方法 | 一括移転(全体を一度に移す) | 段階移転(部署・フロア単位で分割) |
工事の時間帯 | 日中や休日に集中 | 夜間・深夜・営業時間外に限定される |
ITインフラの切替 | 一括切替で短時間の停止が発生 | 段階移設+仮設対応で業務を継続 |
社内外の調整業務 | 比較的少ない | 各部署・取引先・業者との密な連携が必要 |
このように、複数工程を並行して進める必要があるため、通常の移転よりも高度なマネジメントと柔軟な設計が求められます。
よくある支障・トラブルの事例(IT停止、工程遅延など)
業務を止めない移転は理想的な反面、計画が不十分だった場合に大きな支障をきたす恐れがあります。よくあるトラブルには以下のようなものがあります。
- インターネットや社内LANが一時停止し、営業やサポート業務が中断
- 電話番号の切替ミスや遅延によって、顧客からの問い合わせに応じられない
- 夜間工事の進行が遅れ、翌日の業務に影響
- 社内への情報共有が不足し、どこで業務を行えばよいか混乱が生じる
- 近隣テナントとのトラブル(深夜騒音、資材搬入など)
これらの問題は、初期段階での対策や連携体制が不十分であることが主な原因です。逆にいえば、工程とリスクを正しく把握し、適切な段取りをすれば、業務を止めずに円滑な移転を実現することは可能です。

業務を止めない移転を成功させる5つの戦略
業務を止めないオフィス移転を実現するには、ただ急がず進めるだけでは不十分です。前述の基本方針を踏まえ、次に紹介する5つの具体的な戦略を組み合わせることで、移転の成功率は格段に高まります。
① 段階移転の活用:フロア単位・部署単位で移転する
オフィス全体を一度に移転する「一斉移転」は、効率的である反面、業務を一時的に止めるリスクも伴います。そこで有効なのが段階移転です。部署やフロアごとにスケジュールを分けて順次移転を進めることで、業務への影響を最小限に抑えることが可能です。
たとえば、バックオフィスから先行して移転させ、クライアント対応部門は最終段階に移すといった工夫が有効です。段階移転には綿密な計画が欠かせませんが、事前に工程表を共有し、部署ごとの優先順位を明確にすることで、スムーズな運用が実現できます。
② 夜間・休日工事:営業時間外に内装・インフラ工事を進める
「営業時間中に工事音が響いて業務が中断した」「作業員の出入りでセキュリティに不安が生じた」といった声は少なくありません。これを回避するために有効なのが夜間・休日の工事対応です。
とくに通信インフラや電気配線の切り替えなど、業務に直結する工程は、稼働時間外に実施することで、トラブルを回避できます。また、オフィスビルの使用条件や近隣テナントとの調整も重要です。夜間工事の実績が豊富な施工会社であれば、こうした外部との折衝もスムーズに対応してくれるでしょう。
③ IT・通信インフラの同時移設・ダウンタイム最小化
業務支障を防ぐうえで特に注意が必要なのがIT・通信インフラの切り替え対応です。電話やネットワークが使えない状態は、数時間でも重大な業務停止につながりかねません。
そのため、LAN工事やPBX、VPN、クラウド環境の移行などは、移転当日に一括で対応できるよう、通信事業者やシステムベンダーとの事前調整が不可欠です。場合によっては、新旧オフィスでの一時的な並行稼働(デュアル設置)を取り入れることも検討しましょう。
④ 仮設オフィス・倉庫の一時活用
一時的にでも通常の執務空間を確保できない場合は、仮設オフィスや貸倉庫の活用が有効です。とくに情報漏洩や物理的な制約が大きい業種では、仮オフィスを一時的に利用して業務継続を担保するケースが増えています。
また、荷物の一時保管用に倉庫を使うことで、移転工程を柔軟に組むことができ、工期や工程の遅延リスクにも対応しやすくなります。仮設の選定には、移転元・移転先との距離や通信環境なども重要な判断基準です。
⑤ 社内外のスケジュール調整・工程表の共有
複雑化しがちな段階移転や夜間工事を円滑に進めるためには、関係者との工程共有が不可欠です。社内では、各部門ごとの移転日・使用不可期間を明確に伝え、混乱を防ぎます。社外では、ビル管理会社、インフラ事業者、施工業者との調整がポイントです。
Googleスプレッドシートやプロジェクト管理ツール(Backlog、Asanaなど)を活用してリアルタイムで進捗を共有することで、認識ズレや作業漏れを防ぎやすくなります。「全員で移転を成功させる」という意識共有が、業務を止めないオフィス移転の鍵です。
オフィス移転で業務支障を最小限にする準備手順
業務を止めないための戦略を実行に移すには、綿密な準備が欠かせません。ここでは、移転前から押さえておくべき社内体制の整備やインフラ手配など、業務支障を最小限に抑えるための準備手順をご紹介します。
社内プロジェクト体制の構築とタスク分担
オフィス移転を業務に支障なく進めるには、社内で明確なプロジェクト体制を組むことが欠かせません。移転担当の責任者を中心に、各部署から代表者を選出し、情報伝達と意思決定のスピードを高める体制を整えましょう。加えて、業務分担も重要です。什器選定、インフラ調整、広報・社外通知など、必要なタスクを洗い出し、担当者を明確にしておくことで、移転の全体像を把握しやすくなります。
施工・内装工事のスケジュール逆算と調整
内装工事やインフラ整備は、移転日から逆算してスケジュールを組む必要があります。特に夜間・休日工事を予定している場合、資材搬入の時間制限やビル側の許可申請など、通常工事とは異なる調整が発生します。工程がひとつでも遅れると全体に影響が出るため、事前に余裕を持ったスケジュールと、工事業者との緊密な連携が成功の鍵となります。
オフィスレイアウト計画と必要什器の見直し
移転を機に、レイアウトや什器の最適化を図る企業も少なくありません。新オフィスでの動線や部署間の連携、会議室の使いやすさなどを考慮したレイアウトを計画しましょう。また、今ある什器が新しい空間に適しているかも見直すべきポイントです。什器の入れ替えタイミングや納期も踏まえた上で計画を立てることで、業務の中断を避けられます。
ネットワーク・電話・電源などのインフラ手配と確認
業務を止めない移転において、IT・通信インフラの整備は最重要項目です。移転直後から社内ネットワークや電話が使えないと、顧客対応や業務進行に大きな影響を与えてしまいます。インターネット回線の開通手続きやPBXの移設、電源工事の調整などは、早期に業者と連携し、確実に手配・確認を行っておきましょう。
在宅勤務やフレックス導入との組み合わせ活用
業務支障を抑える柔軟な手段として、移転期間中に在宅勤務やフレックス制度を取り入れるのも効果的です。出社人数を減らすことで現場の混乱を防げるほか、工事中の安全確保や騒音対策にもつながります。特にバックオフィス業務やリモート対応可能な部署にとっては、業務継続性を保ちつつ円滑な移転を実現する有効な手段となります。
段階移転・夜間工事で気をつけたい注意点

業務を止めずにオフィス移転を実現するためには、「段階的な移転」や「夜間工事」が有効な手段となります。ただし、これらの手法には特有のリスクや配慮すべき点も多く、準備不足が思わぬ業務支障を引き起こす可能性もあります。ここでは、段階移転・夜間工事を円滑に進めるために押さえておきたい注意点を解説します。
工事音や振動による業務影響への配慮
夜間工事であっても、翌朝に工事音の余韻や振動が残っている場合があります。特に、耐震補強や床材の張り替えなどの大規模工事は、建物全体に影響を及ぼすことも。事前に騒音・振動の有無を業者に確認し、必要に応じて工事範囲を区画化したり、業務エリアから離れたフロアから進めるなどの配慮が求められます。
工事スケジュールのズレによる工程全体の遅延
夜間工事や段階移転では、工程が細かく分かれる分、ひとつの遅れが連鎖的に他の作業にも影響を及ぼすリスクがあります。たとえば、什器搬入が遅れればレイアウト設置ができず、ITインフラの設置も延期されてしまうことに。施工会社とは日次・週次で工程表を共有し、進捗管理をこまめに行うことが重要です。
夜間・休日の搬入対応とビル管理者との調整
夜間や休日の作業を計画する場合、ビル側との事前調整は不可欠です。共用部の照明・空調・エレベーターの使用可否、警備会社への通知、工事車両の搬入ルールなど、時間外対応に関する細かなルールがあるため、十分な確認と書面での申請が必要です。特にオフィスビルでは厳格な規定がある場合も多いため、早期に管理会社と連絡を取り合いましょう。
社内の混乱防止のための情報共有と周知
段階的な移転では、一部の社員が新オフィス、他は旧オフィスといった状態が続くケースもあります。社内で「誰が・どこで・何をしているか」が不明確になると、業務混乱や連携ミスを招きかねません。メールや社内ポータルでの告知、移転マニュアルの配布、部署ごとの出社場所の周知など、丁寧な情報発信が不可欠です。
セキュリティ・機密情報の一時的なリスク対策
工事中や段階移転中は、オフィスのセキュリティが一時的に低下しやすくなります。段ボールに保管された書類や、未施錠のキャビネットなどから、情報漏えいリスクが高まる可能性も。PCやサーバー、顧客情報などの機密資産については、施錠保管や持ち出し制限など明確な対策ルールを設け、従業員にも徹底しましょう。
オフィス移転後の業務再開とトラブル防止チェックリスト
オフィス移転の当日が無事に終わっても、業務がスムーズに再開できるとは限りません。移転後の初動でトラブルが起これば、業務支障や社員の混乱を招く可能性があります。ここでは、新オフィスでの業務を円滑に再開するためのチェックポイントを整理し、トラブルを未然に防ぐための視点をご紹介します。
通信・ネットワークの即時稼働確認
ネットや電話回線が使えなければ、業務の立ち上げに大きな支障が出ます。通信機器の設置直後には、以下のチェックを現場で必ず実施しましょう。
- 有線/Wi-Fiネットワークの接続確認
- 各部署の電話番号の発着信テスト
- 複合機やクラウドサービスとの連携チェック
事前に「チェックリスト化」しておくことで、当日の確認漏れを防げます。
社員の座席・設備使用に関する案内徹底
新オフィスに移ると、席の場所や使い方に関する混乱が起きやすくなります。業務効率を落とさないために、以下の施策が効果的です。
- レイアウト図や座席表の掲示
- 共有備品の設置場所・ルールの案内
- フリーアドレスの場合の使用ガイド配布
社員が迷わず動けるような工夫が、スムーズな業務開始につながります。
移転トラブルの早期発見と対応窓口の明確化
「電話がつながらない」「荷物が届いていない」といった細かなトラブルは、早期対応が肝心です。そのためには、次の体制が必要です。
- 初動対応メンバーの配置(総務・IT・業者など)
- 社員からの報告受付窓口の設置(Slackや専用メールなど)
- 移転業者・施工会社との即応連携体制の構築
トラブルが起きた際も「誰に言えばいいのか」が明確になっていれば、大きな混乱を防げます。
業務フローや動線の最終確認とフィードバック収集
実際に稼働し始めて見えてくる問題点もあります。たとえば、「備品の配置が不便」「来客対応がスムーズにできない」といった課題があれば、すぐに改善すべきです。
- 社内アンケートやヒアリングでの課題抽出
- 調整可能なレイアウト・運用面の改善
- 継続的な振り返りによる最適化
移転後も「完成」ではなく「最適化の継続」と捉えることが、長期的に快適なオフィス環境を育てるカギとなります。
まとめ|業務を止めないオフィス移転は“準備”と“パートナー選び”が鍵
オフィス移転を成功させるうえで、「業務を止めない」という視点は、今や欠かせない要素です。特に、社内外への影響が大きい企業や常時稼働が求められる業態においては、段階的な移転計画・インフラ対策・社内体制の構築など、入念な準備が不可欠です。
そして、こうした複雑な工程をスムーズに進めるには、経験豊富なパートナーの存在が重要です。株式会社リスビーでは、物件選定段階からの支援「リ・プロローグ」や、業務を止めない夜間工事・段階移転にも対応した柔軟なオフィス移転支援を行っています。
