オフィスの移転は一大プロジェクトですが、全社一斉に引っ越すスタイルでは、業務の停止や社員の混乱といったリスクがつきものです。特に大規模組織や、常に営業活動を継続する必要のある業種では、「業務を止めないオフィス移転」が大きな課題になります。
そこで注目されているのが「段階的オフィス移転」という手法です。部署や業務単位で移転を分けて行うことで、稼働を維持しながらスムーズな移転が可能になります。
本記事では、段階的な移転の基本からメリット、具体的なスケジュール設計方法、注意点までを詳しく解説します。初めてのオフィス移転を検討している企業様や、事業継続性を重視したいご担当者様は、ぜひ参考にしてください。

段階的なオフィス移転とは?基本の考え方と適用シーン
段階的移転とはどのような手法か
段階的オフィス移転とは、企業のオフィス移転を一度にすべて終わらせるのではなく、複数のフェーズに分けて計画的に実行していく移転方式です。
たとえば、第一段階では管理部門と会議室エリアを先に移転し、第二段階で営業部門や顧客対応部署を移動するといった流れで進めます。業務の影響を最小限にとどめながら、段階的に新拠点へ移行していくのが特徴です。
このような手法により、業務の継続性を確保しつつ、各部門の準備時間や負荷も分散できます。
どんな企業・状況に適しているか
段階的な移転は、以下のような状況にある企業に特に向いています。
- 社員数が多く、全社一斉の移動が現実的でない
- 24時間稼働や土日営業など、業務の停止が難しい
- 顧客対応やコールセンター機能を持つ部署がある
- 新オフィスの工事やネットワーク開通が段階的になる
こうした企業では、段階移転を活用することでスムーズな業務継続が実現でき、トラブルや混乱の回避にもつながります。

段階的移転のメリットと注意点
段階的な移転は業務継続に有効な手段ですが、すべてがメリットばかりではありません。ここでは、段階移転がもたらす主な利点とあわせて、注意すべきポイントについても解説します。
メリット1:業務の中断を最小限に抑えられる
最も大きなメリットは、日常業務を継続しながら移転作業を進められる点です。特に、顧客対応やバックオフィス業務を止められない企業にとっては、稼働率を維持したまま移転できるのは大きな利点です。
メリット2:各部署ごとの準備に余裕ができる
移転がフェーズに分かれているため、各部門はそれぞれのスケジュールに沿って準備や作業を進めることができます。引っ越し業務やIT機器のセットアップなどを集中せず分散できるため、ミスや混乱を軽減できます。
メリット3:段階的に新オフィスの課題を修正できる
第一段階で発見された課題(レイアウトやインフラの不具合など)を次のフェーズまでに改善できるため、全体として移転の精度が上がります。改善のPDCAを短期間で回せるのも段階移転の魅力です。
注意点1:移転期間が長期化する可能性がある
段階的な移転は、工事・搬入・引っ越しなどの工程を複数回に分けるため、全体の移転完了までに時間がかかる傾向があります。結果として仮設ネットワークや一時的な混在運用のストレスが発生する可能性もあります。
注意点2:二重拠点の管理コストがかかる
移転期間中は旧オフィスと新オフィスの両方を維持する必要があるため、光熱費や警備費などの二重コストが発生します。必要以上に期間を引き延ばさないよう、段階計画と撤収スケジュールをセットで策定することが重要です。
段階的移転の進め方とスケジュール例
段階的なオフィス移転を成功させるためには、各フェーズを明確に区切り、事前に全体像を把握しておくことが重要です。ここでは、分割移転の典型的なスケジュール例とともに、進め方のポイントをご紹介します。
ステップ1:全体スケジュールの策定とフェーズ分け
まずは、移転完了までの全体スケジュールを明確にし、その中で「どの部署を」「どのタイミングで」「どのフロアに」移すのかを決定します。部署間の業務依存関係や通信インフラの準備状況も考慮しながら、フェーズごとの移転日程を逆算していくのが基本です。
ステップ2:部署ごとのタスク洗い出しと役割分担
各部署には、移転に伴う準備タスクを割り振る必要があります。たとえば「荷造り・ラベリング」「データバックアップ」「必要備品の確認・申請」など、移転フェーズの前に完了しておくべき作業を明確化し、責任者を配置して管理します。
ステップ3:フェーズごとの移転実施とレビュー
1つのフェーズが完了したら、すぐに業務を開始するのではなく、通信環境・什器配置・動線などに不備がないか確認することが重要です。問題があれば次フェーズまでに改善するなど、段階ごとに改善を繰り返していくことで全体の完成度を高められます。
ステップ4:全社移転完了と最終確認・撤収作業
すべてのフェーズが終了した段階で、旧オフィスの原状回復・設備撤去・契約解除などを進めていきます。これらは見落とされがちな工程なので、事前に原状回復業者やビル管理者との打ち合わせを済ませておくと安心です。
分割移転を成功させるためのポイントとリスク対策

段階的な移転には多くのメリットがありますが、進め方を誤ると業務に支障が出る可能性もあります。この章では、スムーズな分割移転を実現するために押さえておきたい成功ポイントと、想定されるリスクへの対処法を解説します。
成功のポイント1:社内共有と情報の一元管理
分割移転では、部署ごとに移転タイミングや作業内容が異なるため、全社的な情報共有が欠かせません。社内ポータルやチャットツールを活用し、「誰が、いつ、どこへ移転するのか」「インフラはどの段階で整備されるのか」などの情報をリアルタイムで共有できる環境を整えておくことが重要です。
成功のポイント2:外部パートナーとの連携強化
オフィス移転に関わる業者(施工会社、ITベンダー、引越し業者など)との連携が不十分だと、フェーズごとの切り替えがスムーズに進まない可能性があります。各社との打ち合わせはフェーズ単位で分け、工程ごとに明確な責任と期限を設定しておくとよいでしょう。
成功のポイント3:柔軟に対応できるスケジュール設計
すべてを予定通りに進めるのは難しいため、移転スケジュールにはある程度のバッファ(余裕)を持たせておくことが賢明です。想定外のトラブル(設備の遅れ、人員不足、天候など)が発生しても、稼働を止めずに対処できる設計が理想です。
想定されるリスクと対策
リスク | 対策 |
業務の混乱 | フェーズごとの業務マニュアルを作成し、事前に全社周知 |
通信・ネットワークの不具合 | 各フェーズ前にインフラの事前テストを実施 |
荷物や資料の紛失 | ラベリングやチェックリストによる徹底管理 |
旧オフィスの原状回復遅れ | 段階ごとの撤収計画と原状回復業者との事前調整 |
段階移転が向いているケースと向いていないケース
段階的なオフィス移転は多くのメリットがある一方で、すべての企業にとって最適な方法とは限りません。自社の状況を見極め、移転方式を選択することが重要です。ここでは、段階移転が特に効果的なケースと、むしろ一斉移転を検討すべきケースを具体的に解説します。
段階移転が特に効果を発揮するケース
- 大規模・多拠点企業 数百人から数千人規模の従業員を抱える企業では、物理的に全社員が一度に移動するのは困難です。また、すでに複数の拠点を持つ企業が本社機能を統合・移転する際など、組織構造が複雑な場合にも段階移転は有効です。
- 24時間365日稼働のサービスを持つ企業 サーバーの監視・運用、オンラインサービスのカスタマーサポート、金融機関のディーリング部門など、一時的であってもサービスを停止できない事業を持つ企業にとって、段階移転は必須の選択肢と言えるでしょう。
- 旧オフィスの契約期間に余裕がある場合 移転期間中は新旧両方のオフィスを維持する必要があるため、二重コストが発生します。しかし、旧オフィスの解約予告期間が長く、賃料が二重に発生する期間がもともと存在する場合は、その期間を有効活用して余裕のある段階移転を進めることができます。
- 新築ビルや大規模改装ビルへの移転 新築ビルへの移転では、フロアごとに工事の完了時期がずれることがあります。このような場合、完成したフロアから順次移転していく段階的なアプローチが現実的かつ効率的です。
一斉移転の方が適しているケース
- 小規模・スタートアップ企業 従業員数が少なく、部門間の連携が密な企業の場合、段階移転はかえってコミュニケーションの分断を招き、非効率になる可能性があります。数日間の業務停止を許容できるのであれば、一斉移転の方がコストを抑えられ、移転完了までの期間も短縮できます。
- コストを最優先したい企業 段階移転は、移転期間の長期化に伴い、二重賃料や複数回にわたる移転作業費など、コストが割高になる傾向があります。移転にかかる総費用を可能な限り抑えたい場合は、一斉移転の方が有利です。
- 移転を機に組織の一体感を醸成したい企業 オフィス移転は、全社員が関わる一大イベントです。この機会を利用して、全社的なキックオフイベントなどを開催し、組織の一体感や新しいオフィスへの帰属意識を高めたいと考える企業にとっては、全員で一斉に新しいスタートを切るスタイルが適しています。
稼働を止めない計画立案なら、信頼できる伴走パートナー選びが重要
段階的なオフィス移転は、自社だけで計画・実行するには非常に複雑で、多くの調整業務が発生します。成功の鍵を握るのは、こうした「稼働を止めない移転」のノウハウと実績を豊富に持つ、信頼できるパートナーを見つけることです。
たとえば、株式会社リスビーは、まさにそうした企業の心強い伴走パートナーです。
同社は、お客様の業務継続を第一に考え、通常の業務時間外である夜間や休日の工事、本記事で解説した段階施工にも柔軟に対応します。企画・設計からデザイン、内装工事、インフラ整備までをワンストップで支援してくれるため、部署ごとの複雑な調整や業者間の連携といった担当者の負担を大幅に軽減できます。
単に施工を行うだけでなく、お客様の事業内容や働き方を深くヒアリングした上で、移転に伴うコストやリスクを最小限に抑える最適なプランを提案してくれるのが大きな魅力です。
「何から手をつけていいかわからない」「業務への影響をとにかく最小限にしたい」といった課題をお持ちなら、一度相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ:周到な計画が「業務を止めない移転」の鍵
本記事では、業務を継続しながらオフィス移転を実現する「段階的オフィス移転」について、その手法からメリット・注意点、具体的な進め方までを解説しました。
段階的移転の最大の魅力は、顧客対応や基幹業務を止めることなく、スムーズに新環境へ移行できる点にあります。特に、事業継続性を最重要視する企業にとっては、非常に有効な選択肢です。
一方で、移転期間の長期化や二重コストの発生といったデメリットも存在するため、採用にあたっては慎重な判断が求められます。成功の鍵は、以下の3点に集約されます。
- 緻密な全体計画:どの部署を、いつ、どのように動かすのか、フェーズごとの詳細な計画を立てる。
- 徹底した情報共有:移転スケジュールや各部署の役割分担を全社でリアルタイムに共有し、混乱を防ぐ。
- 柔軟な進行管理:予期せぬトラブルに備え、スケジュールにバッファを持たせ、関係各所と密に連携する。
オフィスの移転は、単なる「引っ越し」ではなく、企業の働き方や文化を再構築する絶好の機会です。自社の事業内容、組織規模、企業文化などを総合的に考慮し、一斉移転と段階移転のどちらが最適かを見極めることが重要です。
